展覧会などに行ったはなし(夏,2)

TenQミュージアム

宇宙と聞いて期待して行ったものの,想定より対象年齢が低かったのが誤算だった。こどもの姿が多く,たしかに小学生の夏休み自由研究のお題にはぴったりかもしれない。

とはいうものの,子供だましにしても少々つくりが雑なのでは……と感じたのがシアター宙のムービーだ。たしかに曲面スクリーンを上から見下ろすかたちでの鑑賞が体験として面白いのは事実だが,もっと教育的な意味でストーリー性のある構成にするか,もしくは映像美に注力するか,やりようがあったのではないかという印象を受けた。

サイエンス・ゾーンは太陽系惑星や世界の探査機の展示,加えて研究室の常時デモンストレーション(?)があり若干興味深かった。ただ,土星の衛星や歴代探査機については折角比較的詳細な説明があるにもかかわらず,壁面の読みづらい位置に非常に細かいフォントで記載してあるなど,とてもではないが鑑賞者のことを考えていないとしか思われない箇所があり残念だった。

ゲームやコンテンツのあるイマジネーション・ゾーンでは小学生の子供づれが楽しんでいたので,やはり対象年齢ではなかったのが最大の問題だったのかもしれない。

 

Apeloiggg Tokyo(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)

gggはロマン・チェシレヴィチの展示もよかったので期待していったところ,今回もよかった。フィリップ・アペロワはパリを中心に活動するグラフィック・デザイナーとのことで,シンプルながら力強いタイポグラフィが愛らしい。

文学フェアやミュージカルなど,文化的なイベントのポスターを多く手掛けているようだ。文学フェアものの一枚で大江健三郎がフィーチャーされているものがあったが,いままで見た大江健三郎のなかで一番かっこよい。

イッセイ・ミヤケの香水パッケージを見て思ったのだが,「イッセイの水」をフランス語にするとl'eau d'Isseyとなるし,香水名であるnuit d'Isseyにいたっては意味としては「イッセイの夜」であるのに,とにかく仏語表記映えのする名前だなとなった。とくに仏語圏で活動する予定はないが,羨ましい。

点数がそれほど多いわけでもなければメッセージ性が非常に強い展覧会というわけでもないが,シンプルなデザインの普遍的な良さやタイポグラフィの活力を感じられるよい展示だったと思う。場所もよいうえそれほど混雑せず無料なので,もっと評価されてもよい気がする。

展覧会などに行ったはなし(夏,1)

ベルギー奇想の系譜(Bunkamura

評判がよかったのと広告がかわいかったのでそれなりに期待していったものの,個人的な好み(18世紀以降の写実,風景や肖像が好き)に合わず絵画はちょっと不満足だった。ただしモチーフがはっきりしておりごちゃごちゃ色々描いてあるので,解釈が好き派には鑑賞しやすい作品が多いのではないかと思う。

キリスト教絵画はそれなりに見てきたつもりだったが,恥ずかしながら「聖クリストフォロス」や「聖アントニウスの誘惑」はほとんど題材として認識していなかったので興味深く観た。”キモかわいい”クリーチャーを描きたいがためにわざわざ聖書を引いてきているようで,ちょっといじらしい。

一方,いままでほぼ興味がなかった立体にぐっとくるものが多かった。具体的にはヤン・ファーブル,トマス・ルルイがそれ。シニカルなスタンスとどこかかわいらしいキャッチ―な造形が「なんとなくキモい」,「なんとなくかっこいい」フォルムに収まっており,なんともいえない魅力を感じる。

それと,点数は少なかったがパナマレンコの紹介もよかった。活動の詳細は把握していないが,変な発明おじさんということらしい。ちょっと古い冒険ものSF作品のようなあたたかみと茶目っけが愛らしい。

全体的には,ボス派作品をアニメーション化したものを流すしかけや,細かいエッチングの拡大図の掲示など鑑賞者にやさしいつくりだった。作家に注目したのではなく「キモかわいい」ベルギーの作品をアンソロジー的に集めてあるので,「絵画はよく知らないのでちょっと……」という人も気軽に楽しめるかもしれない。

 

TOKYO ART CITY by NAKED(Gallary AaMo)

はやりの”トーキョー”概念×プロジェクションマッピング。彩色とキャッチ―さはセンスがよかったので,一見の価値はあると思う。個人的には入口すぐの新宿ゾーンがおすすめ。

投影された壁面に絵を描けるインタラクションや,東京の交通状況を指定して表示できる俯瞰ゾーンはつくりがよかったのではないかと思う。後者の交通状況について,リアルタイム表示とも読める説明があったが,もう少し詳細が知りたかった。この類のイベントに情報の厳密な正確性は意味がないと思うが,ちょっとハッとさせられるような読み取りができる工夫*1が可能だったのではないかなーとも感じた。

一方で少々安っぽく感じた面もある。数分にいちど挟まるロボットダンスショーや東京タワーゾーンの画面表示,お台場手前の日本建築模型プロジェクションマッピングがそれだ。秋葉原ゾーンのガチャも,会場が暗いせいもあるかもしれないが,もうちょっと「ぜひ回したい!」となる誘導があり得たのではないかという気がしている。

とはいえ,全体的にSFイメージ実装の過剰演出感を売りにしているところは成功の印象がある。また,ロボットダンスについていえば,かなり高頻度で展示全体を巻き込んで行われるのだが,これが鑑賞体験を細切れにしてくるのがプラスに働いていると感じた。ひとつひとつの作品をじっくり鑑賞する,というよりは,大量に流れている情報を動き回りながら流れとして体験するほうが正しいように思う。

正直なところ「情報都市トーキョー!」といったようなスローガンには食傷ぎみだが,キャッチ―な演出はよかったのではないかというのが感想だ。

*1:羽田に向かう航空機が複雑な軌道を描いているのが見えるとか?